この記事は 2025年8月19, 20日にラスベガスで開催された World of Workato (WoW) というイベントの参加レポートです。
ただ、Workato の紹介ではなく、「AI エージェント」や「エージェント型 AI(Agentic AI)」さらには「AI 社員の雇用」といった概念に触れながら、AI エージェント構築への視座を得ることができた体験談を主にまとめていきます。
読んでいただくことで、AI エージェント / エージェント型 AI の企業導入を考えている方に、気づきのある内容になっていることを願います。

🤔 イベント参加前:
Workato を用いた POC と期待
私はコインチェック株式会社で全社の生成 AI 利用推進をミッションに持ち、いくつかのプロダクト導入を進めています。
その中で、AI エージェントの活用 は特にキーとなると考えて注目しています。従業員をサポートして生産性を高めること、あるいは従来人手に頼っていた業務を手放すことを可能にすることを狙っていました。
そして、それを実現するプロダクトは「エンタープライズ検索」または「iPaaS」からの発展だろうと考えています。
こうした文脈で、複数のプロダクトを比較検討する中、Workato 社が提供する Workato ONE に含まれる AI エージェント構築機能も有力な候補に挙がっており、現在 POC を進めている段階です。
POC では私の部署が情報システム部門ということもあり、まずは ヘルプデスク業務を担うエージェント を構築しながら、AI エージェントによって期待される効果や全社でどう活用できるかを考えていました。
このエージェントのユースケースは、Slack 上で寄せられる従業員からの問い合わせに対応するものです。Confluence からマニュアルを取得し、必要に応じて追加のヒアリングを行います。そのうえで手順に沿って自動的に外部システムに接続し解決を試み、不足があれば人間にエスカレーションする設計を想定していました。
このユースケースで得られる価値は以下であると理解していました。
- ユーザー体験
- 複雑化したナレッジベースを読むことや乱立したフォームを探す必要がなく、自然言語で問い合わせるだけで課題を解決できる
- ヘルプデスクチームの体験
- コアとなる小さい操作のワークフロー構築と、自然言語で書かれた手順書で自動化が実装できる
→ 複雑なワークフローの構築・メンテナンスする負担からの解放 🎉
- コアとなる小さい操作のワークフロー構築と、自然言語で書かれた手順書で自動化が実装できる
これ自体大きな価値を産み、ROI も十分得られると確信していました。
あとは他部門でのユースケース、使いやすさ、会社で利用する SaaS への対応状況、統制面の評価をすればよいと思っており、WoW ではそういった情報やプラクティスを得ようと考えていました。
ただ、参加して振り返ってみると、この時点での私は、AI エージェントを「人が話しかけたり、起動する仕組みを作って使う」設計をしており、あくまで 効率化の延長 という視点が強かったと思います。
しかし「AI エージェント」はもっと先へ進んでいました。人が指示するのではなく、自ら目標を持ち、自ら行動する存在へと…。
「AI エージェント」と「エージェント型 AI(Agentic AI)」
ラスベガスに旅立つ前にもう少し、私の些細な疑問を共有します。
少し前に Gartner、AIエージェントとエージェント型AIに関する見解を発表 を読み、「エージェント型 AI」という言葉を知りました。
2024年は「AIエージェント」という言葉が注目されているが、2025年は「エージェント型 AI」が注目されていること。
「エージェント型 AI」は「エージェント性と目標指向性を備えた進化系」と説明しています。単に状況に応じて動くだけではなく、目標を理解し計画を立て、自律的に業務を遂行する存在へと進化したものが出てきているとのことです。
ちょっとした言葉の違いで大して重要ではないとは思いますし、Dify や n8n も「Agentic AI」を構築するツールだと謳っている中で、何が違うのかというのは明確に示してくれません。
この違いが何なのか、それは自分にはイメージできていないビジョンではないかとも引っかかっており、AI 最前線のアメリカでそのビジョンを掴めれば…とも思っていました。
✈️ いざ、ラスベガス
WoW は Workato 社が主催するワールドカンファレンスです。日本も含む各国での開催がありますが、アメリカでの内容が最も最先端の情報を得られる機会です。
Workato 社はこれまでエンタープライズ向けの iPaaS(Integration Platform as a Service)製品の開発を進めてきた企業です。近年は「iPaaS」よりも「オーケストレーション」というキーワードを強調するとともに、「生成 AI」への適用にも言及してきました。
そして今回のイベントでは、AI エージェント領域、特に「エージェント型 AI」への進展が大きなテーマとして掲げられていました。
Workato が描くエージェント型 AI
WoW で特に強調されていたのは、単なる自動化ツールとしての AI エージェントではなく、能動的に行動する「Agentic AI」の構築でした。
従来の AI エージェントは「人が求めた時に応答する受動的な存在」でした。しかし Workato が目指すのは、「目標達成のために自ら考え、自ら行動する能動的な存在」です。この転換を可能にする鍵が「AI エージェントに KPI を持たせること」だと説明されました。
KPI を持つことで、AI エージェントは単なる効率化ツールから「AI 社員」へと進化します。そして、この能動的な AI エージェントを実現するために、AIRO と Acumen という2つの機能群が発表されました。
※ AIRO と Acumen は Workato 社が提供する機能の名称です
AIRO は自然言語によって Workato のエージェントや自動化ワークフローを作成する機能です。一方、Acumen はエージェントが持つ KPI からインサイトを得る機能です。この2つが循環するサイクルこそが、能動的な AI エージェントを実現する核心だと語られていました。

また、この AI エージェントは階層的に組織され、AI 同士がオーケストレーションされる未来像も語られていました。下層のエージェントが具体的な業務を担い、その上流には「組織全体の最適化」をミッションに掲げるエージェントが存在する、といった感じです。これは、人間の組織における KPI ツリーの仕組みを AI に拡張したものと捉えられます。
※ 画像中の Genie とは Workato ONE 上で構築した AI エージェントのことです。
想像を膨らませる
このコンセプトによって実現できることを少し想像を膨らませながら考えてみます。
例えば、社内ヘルプデスクのナレッジベースを持たせ、従業員からの質問に応答する「ヘルプデスクエージェント」を作成します。このエージェント自体を作るのは非常に簡単で、Workato でも、Dify や n8n でもすぐに作成できると思います。
WoW 参加前の私であれば、このエージェントの実行数が多ければ成功と捉えてそれで終わっていましたが、上述のエージェント型 AI を知ったのでもう少し踏み込んでいきます。
私の所属する組織では「従業員体験の最大化」をミッションとして持っているため、ヘルプデスクエージェントの KPI には「従業員の自己解決率」を持たせてみます。
エージェント作成時はある程度最新のナレッジベースを登録できているため、おそらく良い数字が得られると思います。しかし、少し時間が経つとナレッジベースが古くなり、自己解決率が下がってきます。
そこで Acumen が自己解決率の低下を検知し、そこからの示唆を提示してきます。
最近ユーザから回答が間違っていると言われることが多い。この AI エージェントが解決できずにチームにエスカレーションされたチケットを分析して、ナレッジベースに反映させる AI エージェントを雇ってはどうか?
そうすると今度は AIRO が働き、「チケット管理システムのチケットを分析する自動化ワークフロー」「対象となる Confluence のページを探してドラフトを作成する自動化ワークフロー」、これらのスキルを持ったエージェントが作成され、動き出します。
…
実際に WoW では、Acumen は KPI のグラフの表示とそこから読めるインサイトを提示し、人がそのインサイトを受けてエージェントと対話ベースで深掘りしていくデモ。AIRO は入社フローを記した PDF ファイルから、複数の自動化ワークフローを作成し、そのスキルをもった AI エージェントが作成されるデモが行われました。
私が書いたものは大きめに膨らませたものなのでデモはありませんが、Acumen からのエージェントとの対話で最終的に必要な業務指示書を作成してもらい、それを AIRO に渡すことで実現できそうな未来が見えます。
参加前の疑問の整理
「AI エージェント」と「エージェント型 AI」について、Workato 社が提示した「AI エージェントに KPI を持たせることが重要」というのは、Gartner が強調する「エージェント性(agentic)と目標指向性(goal‑directedness)」と大枠で呼応するとても良いアイデアだと感じました。KPI があることによって、AI エージェントの自立性に大きく影響することが理解できます。
私が構築しようとしていた AI エージェントは「指示を待つ存在」だったと捉えられるようになり、それに対してエージェント型 AI は「主体的に動き、付加価値を生む存在」であり、まるで “社員” のように業務を自ら進めていきます。
正直に言うと、「フォームを探さずに自然言語で問い合わせられる」といった改善は、そこまで革新的な変化ではなく、どの程度のコストをかけて実現するのが妥当かは悩んでいました。しかし、KPI を持ち、数値を基に行動へとつなげる「AI 社員」という構想は、ユーザー体験を少し良くするにとどまらず、エージェントにより大きな役割と責任を与えられ、それは業務や組織の在り方そのものを変えてビジネスにインパクトを与える可能性を強く強く感じます。
Dify や n8n は小さく使い始められることから利用者とユースケースが増え、話題になってきています。一方で、Google 社の Opal が公開され、自動化や AI エージェントの開発体験がアップデートされそうな期待が高まっています。
目まぐるしい進化が絶えず起こる渦中で何を選択するか、その意思決定には非常に頭を悩ませます。
そこに、WoW で発表されたような 1 歩先のビジョンを示せる企業は、私としては信頼し、ここに賭けることができる動機になりうると感じます。
💡 他にも印象的だった話
ここまで AI エージェントに関する気づきを書いてきましたが、他にも興味深い情報は多々ありました。
せっかくなので私が特に気になった 2 点をピックアップして紹介したいと思います。
ユーザー体験を向上させるインターフェースの拡張
WoW ではエージェント型 AI を最大限活用するための機能群として 6 つの機能が紹介されました。
ここで私が特筆したいのが Enterprise MCP と Workato Go です。

MCP は ChatGPT や Claude などのチャットツール、Cursor などのコードエディタ、Claude Code や Gemini CLI など、さまざまな AI 搭載ツールからアクセスできる情報や操作できることを拡張する素晴らしいプロトコルです。
Workato はその MCP サーバを構築することができ、そのツールとして構築したワークフローや(将来的に)AI エージェントを登録することができます。簡単にアクセス可能な SaaS を、統制を効かせながら増やすことができます。
また、Workato Go はエンタープライズ検索の製品になります。Google Drive や Gmail、カレンダー、Jira、Confluence、Salesforce、etc など、複数のサービスを 1 つの UI から横断して AI 検索することができます。そしてこのインターフェース上でも、AI エージェントへのアクセスも可能です。
何が言いたいのかというと、これまで Workato の主力のインターフェースは Slack や Teams が主力でしたが、今後はかなり幅広いインターフェース(業務の中心となるツール)から Workato で構築した AI エージェントやワークフローの恩恵を得られるようになります。
Cursor でドキュメントを書いているときにも、画面右にある AI パネルから Confluence に編集を反映させ、AI に投稿文を作成してもらい、そのまま Slack の適切なチャンネルに送信することができます。
Runtime User Connection の強み
Workato の Runtime User Connection 機能は、Slack で Slack アプリを通して自動化ワークフローを実行したときに、その依頼したユーザー本人の認証情報を使って各種サービスに操作を行うことができる仕組みです。
それが、AI エージェントでも利用できること(Agent auth という機能名)、さらに今回のイベントでは、(提供は少し先になるとのことですが)MCP 経由で Google ドライブを操作する場面 にも同様の動きが確認されました。
この仕組みがなぜ重要かというと、ワークフローや自動化における大きな課題の一つが アクセスコントロール(ACL) だからです。例えば Slack のメッセージを検索するとき、パブリックチャンネルだけなら問題は少ないですが、プライベートチャンネルや DM にはセンシティブな情報が含まれることが多く、閲覧すべきでない人がアクセスできてしまうリスクがあります。Google ドライブなど他のサービスでも同様の課題はつきまといます。
従来は安全性を担保するために「パブリック領域のみを検索対象にする」といった制約付きの実装が一般的だったと思います。しかし、それでは十分な利便性を発揮できません。
Workato の Runtime User Connection / Agent auth を使えば、AI エージェントが何らかの操作を行う際に、依頼ユーザーの OAuth 認証を伴って実行するため、アクセス範囲はそのユーザーに許可されている範囲に自然に制限されます。
この設計によって、例えば Gmail の整理や返信、Google カレンダーでの予定作成、ドライブ内のファイル操作といったシナリオでも、AI エージェントが「本人になり代わって」安全に処理できます。ユーザ個別にワークフローやエージェントをいくつも作成する必要はなく、従業員に便利なツールとして提供することができます。AI エージェントの実用化において極めて強力な機能だと強く感じました。
🎉 おわりに
WoW ラスベガスへは Workato Japan が企画したツアーを利用して参加してきました。たくさんの学びを得られるよう、セッションの通訳、まとめレポートの作成、トラブルへの対応など、たくさんの支援をしていただき、不自由なく過ごすことができました。
参加者同士で議論することで理解が進み、気になったことはすぐに隣にいる Workato の技術者に聞いて解消することができる贅沢な時間でした。
(Workato Japan のみなさま、ツアー参加者のみなさま、本当にありがとうございました 🙇♂️)
特に WoW 最終日の夕方、日本からの 16 人の参加者のために用意された特別セッションは貴重な体験でした。経営陣の CEO: Vijay Tella 、Chief Platform & Operations Officer: Amran Debnath、Chief Go-To-Market Officer: Chandar Pattabhiram、CIO: Carter Busse が一堂に会し、私たちだけと質疑応答の時間を割いてくれました。
セッションでは様々な学びがある一方で、消化しきれないこともたくさんありましたが、この場で直接質問でき、自分の理解を深められたことは非常に貴重な体験でした。単なる情報収集にとどまらず、経営視点や研究開発の方向性を肌で感じられたことは大きな財産となりました。
これまで、自分たちで一生懸命に情報を収集して戦略を練り、活用を進めてきてはいました。しかし、プロダクトの作り手たちやその経営者、日本よりも AI が浸透しているアメリカの現場では、自分たちには見えていない未来がたくさんあることを実感しました。
今回の WoW で得た「AI エージェントからエージェント型AIへ」という視点の転換は、今後の AI 活用戦略を考える上で大きな指針となります。効率化の延長ではなく、AI 社員という新しい働き方の可能性を追求していきたいと思います。
📅 最後に少しだけ
9月3日には Workato ユーザコミュニティ JWUG で Recap があるので、ぜひ参加してもっと詳しい話を聞いてみてください!(私は参加できないのですが… 🥲)
11月5日は WoW Tokyo も開催されます!ここでもおそらく Vijay Tella など、エグゼクティブによる AI エージェントのビジョンが聞けると思います。(こちらは私も参加します!)
workatowowconference.cventevents.com
そして最後に、コインチェック株式会社では一緒に全社の AI 推進を担ってくれる仲間を募集しています!DX エンジニアと銘打っていますが、私と一緒に AI の活用推進を行なっていくことが大きなミッションになります。
今回の WoW で得た知見を活かしながら、エージェント型 AI の実現を一緒に目指していける方をお待ちしております!
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