
組込み分野に強みを持つ企業として知られている株式会社DTSインサイト(以下、DTSインサイト)。インサーキットエミュレータ(ICE)をはじめ、様々なプロダクトや組込み技術を駆使して、開発現場から生産ラインまでをトータルサポートしていますが、実はクラウド技術に強みを持つ側面もあります。2017年に3つの会社が統合して誕生して以来、「組込みからクラウドまで」を一気通貫で手がける体制を築いてきました。
本インタビューに登場する松本氏も、その歩みを象徴する存在です。もともとサービスエンジニアとしてキャリアをスタートさせ、そこから組込み、そしてクラウドへと、自身のキャリアを大きく転換させてきました。現在はクラウドチームの担当課長として、マネジメントの立場から多角的な視点でプロジェクトを牽引しています。
技術の進化が激しいクラウド領域において、どのように学び、挑戦し、そしてチームを率いてきたのか。その実践の裏側と、DTSインサイトならではの魅力を語っていただきました。
プロフィール

松本 宏一郎(まつもと こういちろう)
株式会社DTSインサイト
事業本部 システム事業部 開発三部 担当課長
大学卒業後、他業種のエンジニアとして勤めた後、人材育成に力を入れていることに惹かれ、2007年に株式会社DTSへ入社(2017年に株式会社DTSインサイトへ転籍)。入社後、デジタルインフラの組込み開発を経験した後、企業向けクラウドサービス開発プロジェクトへ異動。以降、Web開発とプロジェクト管理をメインで担当し、現在は担当課長として部署の管理を行っている。
サービスエンジニアから組込み系エンジニアへ

―― まずはDTSインサイトについて教えてください。
松本:ハードウェアに強みを持つ横河ディジタルコンピュータとソフトウェアに強みを持つアートシステム、それからDTSの組込み部門が合併・統合して2017年に設立されたのが、DTSインサイトです。組込み分野のスペシャリストという印象が強い会社かもしれませんが、実はSIerとしてクラウド領域も手がけています。組込みからクラウドまで、幅広いエンジニアが活躍している会社です。
―― 松本さんが携わっているのは、どの領域でしょうか?
松本:私が所属するシステム事業部 開発三部では、主にクラウドサービスを扱っています。領域としてはMaaS(Mobility as a Service)が強いのですが、私のチームでは主にアウトカーと呼ばれる、コネクテッドカーの車両外部で通信を行う部分などを扱っています。もちろん、他にもAWSをはじめとする各種クラウドシステムの開発も行っています。
―― ご自身のキャリアについても教えてください。もともとクラウド領域をメインに扱っていたのでしょうか?
松本:いえ、そんなことはなく、エンジニアとしての最初のキャリアはtoCのサービスエンジニアでした。お問い合わせを受けたら現場に出て、機械修理をするような働き方をしていました。そこからキャリアチェンジをして、2007年に今のDTSインサイトに入社してから約7年間は、組込みのエンジニアでした。その後、部署が変わって企業向けクラウドサービスを担当することになり、今に至ります。
―― サービスエンジニアから組込みエンジニアへキャリアチェンジされていますが、なぜDTSインサイトに転職されようと思ったのでしょうか?
松本:端的にお伝えすると、エンジニアとして、もっと「開発」をしたいと思ったからです。サービスエンジニアは、どちらかというと「ものづくり」よりは、トラブル対応や保守メンテナンスがメイン業務です。もっとゼロイチに携わりたいと思っていたところ、DTSインサイトを知り、面白そうだなと思いジョインすることを決めました。
―― どのような点が転職の決め手だったのでしょうか?
松本:一番は人材育成に力を入れている点です。面接などを通じて様々な社員とお話をさせてもらったのですが、エンジニアを大切にしている会社だなと実感できました。ここなら成長できると直感的に感じ、DTSインサイトでキャリアを積むことにしました。
―― DTSインサイトに入社されてから、具体的にどんなプロジェクトにアサインされたのでしょうか?
松本:具体的な名称をお伝えすることはできないのですが、非常に有名かつ多くの方がご利用されているデジタルインフラの組込み開発プロジェクトに、2014年まで参画しました。
そのプロジェクトでは新しい暗号方式やファイルシステムの開発・検証を進めていたのですが、はじめはテスターとして入り、1年後にはあるプロダクトの原理試作の組込み開発担当になりました。その後5年間はテストチームとしてひたすら厳格な品質要件クリアに向けて取り組んでいました。
―― サービスエンジニアから組込みエンジニアへのキャリアチェンジは、大変じゃなかったですか?
松本:大変でしたよ(笑)。商材の特性上、少しの不具合も許されないものでしたので、組込み開発の基礎を学びながら、テストや品質に関する基礎知識や姿勢も学ばせてもらいました。
初めてのクラウド技術 × 初めてのプロジェクトリーダー

―― 2014年以降はどんなことをされていたのですか?
松本:業務内容がガラッと変わり、企業向けクラウドサービスのリーダーとして、顧客管理のためのWebアプリケーション開発の案件にジョインしました。
―― このタイミングで、初めてクラウドを扱いはじめるわけですね。しかもリーダーとして。
松本:はい。実はこのプロジェクトは組込み開発の時にお世話になったお客さまからのご紹介で、関連企業で進めたものでした。以降はずっとクラウド領域のキャリアを歩んでいます。2014年から2020年まではWebアプリケーションの開発とプロジェクトマネジメントの基礎を学びながら従事し、2020年からは同じお客さまの業務システム開発にプロジェクトリーダーとして参画しました。そのうち複数プロジェクトを兼務するようになり、今は担当課長としてマネジメントサイドにいるというわけです。
―― 領域をまたがってこれまで様々なプロジェクトに携わられたと思うのですが、その中で印象に残っているプロジェクトについて教えてください。
松本:一つ挙げるとすれば、今お伝えした企業向けクラウドサービスの開発案件ですね。私の担当領域は、Web開発およびアプリ開発、プロジェクト管理、それからプロジェクトリーダーです。何も分からないところから初めて飛び込んだWebアプリケーション開発だったので、かなり苦しい思いをしながらも、様々なノウハウをスピーディに得ることができました。
参画当初は3名体制だったのですが10数名体制へと拡大させることができ、他にも派生プロジェクトを多数受注するきっかけにもなりました。Web、クラウドのモダンな開発手法など、様々な技術にチャレンジできて、技術者としても成長できたプロジェクトだと思っています。
―― 先ほど「このプロジェクトはお客さまからのご紹介」とおっしゃっていましたが、当時クラウド分野未経験だった松本さんになぜお声がかかったのでしょうか?
松本:そこはもう、気に入っていただけたからかなと勝手に思っています。従前の組込み開発プロジェクトでも、とにかく全く知見のない状態から必死で食らいついていったので、そのような姿勢を評価いただけたのかもしれません。
―― 本プロジェクトで、特にどういう点が難しいと感じましたか?
松本:組込み開発とWebアプリケーション開発の考え方の違いですね。特に品質面について、組込み開発はリリース後にアップデートしにくいため品質を非常に大事にするのに対して、Webアプリケーションはどちらかというと、品質を大事にしつつ「まずはやってみましょう」の姿勢が重視されました。なのでまずは、そこの意識をチェンジするのが大変でしたね。あとは、やはり初めてのWebアプリケーション開発、初めてのプロジェクトリーダーということで、業務内容や技術のキャッチアップがシンプルに大変でした。
―― エンタープライズ規模のお客さまということで、知識・経験不足に起因するミスには厳しいんじゃないかなと推察されるのですが、そのあたりは大丈夫だったのでしょうか?
松本:もちろん、何度も叱咤激励をいただきましたが、分からないことはとにかく周囲のメンバーに聞き回り、「なんとしてでも、やるべきこと/確認すべきことを、しっかり進める」姿勢を見ていただけていたのかなと思います。
特に本プロジェクトのお客さまは、こちらからの提案を非常に積極的に取り入れてくださったので、こちらが提案し、それをお客さまにフィードバッグしていただき、またさらに提案し・・・というのを何度も重ねていくことで、関係性を構築することができたと思っています。
―― ご自身の気づきや成長につながったエピソードも伺いたいです。
松本:開発するシステムは情報システム向けだったのですが、ある画面を設計していたときに、「設定値をもっと増やした方が、自由度が高まって良いじゃん」と思い、画面上で様々なパラメータ調整ができるようにUIを作りました。自信満々でその画面をお客さまに見せたのですが、「様々なことができそうだけど、何をどうすれば良いのか分かりにくい。トゥーマッチだ。」とフィードバックをいただきました。
そのフィードバックを聞いたとき、自分は使う人のことをちゃんと考えることができていなかったな、と思いました。それがすごく印象的でしたね。エンジニアとして良いものを作ろうとしていたけれど、それがお客さまにとって良いものとイコールではないんだと気づいたんです。それ以降、「誰が使うのか」「誰が投資しているのか」をしっかりと考えるようになりました。
「人とは違う角度でアイデアを出す」という強み

―― キャリアの変化と共に、ご自身の強みも変化していったと思います。リーダーになられて、どのように変わりましたか?
松本:若い頃は組込みでしっかりと技術を身につけてキャリアを全うしようと思っていました。しかしクラウド領域やリーダーを経験するうちに、「技術力では他にもすごい人がいるし、自分がここで勝負しなくても良いな」と考えるようになりました。
そのときに自分の強みは何だろうと考えたら、コーディングの技術よりも、管理や折衝、プロセスや工程の改善・提案をすることにあると感じました。あとは、割と変な角度で物事を見る癖があるようで。
―― 変な角度?
松本:はい。「人とは違う角度でアイデアを出す」のが、自分の強みだと思うようになりました。それからは、なるべく違う角度でプロセスやシステムの提案をするようにこだわっています。先ほどの話と重なりますが、作っているシステムの背景を様々な角度で考え、真のニーズは何か、本当にユーザーが使いやすいか、お客さまが本当に求めているシステムになっているかなどを意識しています。
―― 「違う角度で見る」を自覚した瞬間はいつですか?
松本:先ほどの、お客さまの角度やビジネスの角度が大事だと気づいた瞬間ですね。それまでは技術者として良いものを作るしかないと思っていましたから。
―― ご自身のバリューを発揮するために、普段心がけていることは何ですか?
松本:私は、物事にはゼロイチというのは「本当はない」と思っていて、何かのインプットの組み合わせが、面白いアウトプットにつながると考えています。ですから技術だけでなく、映画や本など、様々なものを取り入れるようにしています。
―― 現在はプロジェクトの統括管理をされる担当課長として、マネジメントがメインですが、ご自身としてはマネジメントがしっくりきていますか?それともエンジニアとして手を動かしたいですか?
松本:手を動かしたくなることはありますが、たぶん、私はスペシャリストではない気がしています。やはり、様々なものを見て体験したいんですよね。1つのプロジェクトにディープに入っていくよりも、全体を俯瞰しながら携わる今の状態が、フィットしていると思っています。
資格や研修についても、PMP®(※) 取得やスクラムマスター研修を受講するなどしていますが、これも全体を俯瞰するときの視点や、自分が多角的に見るための一つのツールとして活用しています。
※PMP®:PMI 本部が認定しているプロジェクトマネジメントに関する国際資格です。
―― 改めて、松本さんが感じるクラウド技術の面白さや、DTSインサイトがクラウドを扱うことの強みについても教えてください。
松本:日進月歩で進化している領域なので、非常にエキサイティングです。AWSは毎年ものすごい数のアップデートを発表していますからね。弊社の強みという観点でお伝えすると、お客さまがやりたいことをワンストップでご提案できる点だと思います。組込み技術だけでもクラウド技術だけでも、今の時代は顧客ニーズを満たせないからこそ、それらをトータルで扱っているDTSインサイトの強みが発揮できていると感じます。
ガツガツ意欲的に、失敗を恐れずチャレンジしてもらいたい

―― DTSインサイトの制度、環境、文化がどのように役立ったのかを教えてください。
松本:自分が学びたいと思ったら、研修や仕事など、学べる場を提供してもらえるのは非常にありがたいです。受けたいと言えば、先ほどお伝えしたPMP® をはじめ、資格取得に向けた研修を受けさせてくれます。入社前に感じた従業員教育への積極的な投資は、間違いなかったなと感じています。
―― 逆に、入社して意外だったことはありますか?
松本:この業界はすごく忙しいイメージがあったのですが、意外と普通に土日休みが取れ、ワークライフバランスが取れることです。当たり前ではありますが(笑)。Sler業界は休めないというイメージがありましたが全然そんなことはなく、休みの日は子どもと出かけるなどできるのは意外でした。
―― 会社の雰囲気はいかがですか?
松本:明るい雰囲気といいますか、コミュニケーションを頻繁に取りながら仕事ができるのは、入ってみて少しギャップでした。以前は孤独な仕事かなと思っていたので。
―― チームで活躍しているのはどのような方でしょう?
松本:Webシステムやクラウドシステムは技術の移り変わりが早いので、積極的に自分で知識を収集するメンバーが活躍しています。移り変わりの速さを楽しめるマインドの方が大事だと思っています。
―― 先ほどおっしゃった通り、クラウドって非常に技術の進歩が激しい領域だと思いますが、チーム内での知識共有などはどうされていますか?
松本:ネットの情報やAWSの公式情報を追いつつ、雑談レベルで「これ面白いよね」などと共有しています。勉強会形式にするとやらされている感が出てしまうので、なるべく楽しみながらやった方が身につくだろうと考えています。あと四半期に1回程度開催される社内フォーラムで、全社を横断した情報をキャッチできます。私もAWSについて講師をしたことがあります。
社内フォーラムで講師をしている松本さん
―― 今後、メンバーに期待することや、松本さんご自身の今後のキャリア展望についても教えてください。
松本:メンバーに対してはガツガツ意欲的に、失敗を恐れずチャレンジしてもらいたいです。失敗したら僕たちが支えます。私自身は、人と違うことをやりたいんです。誰も考えつかないようなことを考えて提案したい。今のお客さまに対して、新しい角度でのビジネスやシステムの提案ができるよう、引き続き技術以外のものも含めた新しい知見を多く学び、様々な角度から考えられる人間になりたいと考えています。
―― ありがとうございます。それでは最後に、Qiita読者にメッセージをお願いします。
松本:DTSインサイトは組込みからクラウドまで技術領域が広いので、技術を幅広く学べる機会を提供できる会社です。キャリアについても、私みたいに組込みから入ってクラウドに異動したり、その逆だったり、幅広い選択肢があると思います。様々な分野への好奇心がある人に来てもらえたら嬉しいです。
編集後記
キャリアが常に「変化」と「挑戦」に彩られていたことが、今回のインタビューで非常に印象的なポイントでした。サービスエンジニアから組込み、そしてクラウド領域へと歩みを進める中で、一貫して大切にされていたのは「学び続ける姿勢」と「違う角度から物事を見る視点」で、技術領域に限らず、様々な領域で大切なマインドだと感じます。今後、さらに顧客への提案の幅を広げていきたいとのことでしたので、自由度の高い環境で挑戦してみたい方には、最適なフィールドなのではないでしょうか。
取材/文:長岡 武司
撮影:平舘 平
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