日本国内Twitter(新X)のとある投稿を発端に、一気に燃え広がった「Windows Update(KB5063878)を適用するとSSDが破壊される」件について。
発端のユーザー以外、同じ手順を踏んで問題を再現できるか誰も検証せず、伝聞の憶測をただ拡散するだけの状況に陥っています。
というわけで、SSDオタクの筆者が例の症状を再現できるかどうか検証します。

(公開:2025/9/4 | 更新:2025/9/4)
発端(元ネタ)の投稿をあらためて確認
KB5063878関連で疑われているストレージ不具合の資料ですが、寝不足頭で作ったせいで、ひどい誤表記だらけだったので訂正版アップしておきます…
多分もう大丈夫…だといいなw
睡眠時間の確保は大事ですね_(:3 」∠)_ pic.twitter.com/C2NAVBVjtf— ねこるすきー (@Necoru_cat) August 19, 2025
Windows Update(KB5063878)を適用したあと、SSDに対して特定のワークロードを掛けると、アクセス不能に陥ってしまうと報告しています。
中でも興味深いのが「Crucial P3 Plus」です。
ミニPCやBTOパソコンで非常に採用例が多い、とてもメジャーなSSDですら、今回のWindows Updateにより一時的なアクセス不能に追い込まれたようです。

Windows UpdateでSSDを破壊する実験の手順
発端となったツイートに、どうやって症状を再現できるか具体的な手順もきちんと記載されています。
- 「Cyberpunk 2077」のゲームフォルダをコピーする
- ファイル150個を圧縮した7zipデータをコピーする
- 上記の7zipデータを該当のSSD上で展開する
手順の共通点は「書き込みワークロード」です。
SSDに対して一度に大量の書き込みを実行すると、問題の症状が発生します。軽度ならSSDがアクセス不能になり再起動で復旧しますが、最悪の場合は二度と復旧できない状態に追い込まれます。
筆者の過去の経験上、一部のNVMe SSDはたしかに連続書き込みでドライブを見失う場合があります。しかし、どれも例外なくサーマルスロットリングが原因※です。
SSDコントローラが高熱になりすぎて故障を防ぐために、性能を大幅に下げたり、ときにシステムから見えない状態に。
もちろん、発端のツイートをしたマニアなユーザーはサーマルスロットリングも考慮済みです。適切に冷やした状態で症状の再現に至っているため、サーマルスロットリングはおそらく無関係。
※まれに偶発的な物理的故障もあり得ます。故障率0%の半導体製品はこの世に存在しません。
クリーンな環境を用意して再現実験に挑戦

テスト用の検証環境です。
Windows/System32/drivers配下にインストールされている「ntfs.sys」ファイルが、不具合の原因だとする仮説が存在します。
念のため、各ビルドごとにntfs.sysのバージョンを確認しました。4770なら「10.0.26100.4768(日本語)」、4946以降で「10.0.26100.4946(日本語)」がプリイン済みです。
PowerShellで各ファイルのハッシュ値(SHA256)を取得したところ、確かに4946前後でバージョンが変わっています。
しかし、ntfs.sysのバージョン違いが原因になる可能性は限りなくゼロに近いです。ビルドが更新されるたび、ntfs.sysも更新されていて、今まで問題になった例が皆無だからです。
検証したWindows 11は3つです。KB5063878を導入する前後と、手動でインストールした場合、計3パターンを検証します。
検証用のSSDは以下3枚です。

BTOパソコンでも採用例がとても多い、かなりメジャーなSSD「Crucial P3 Plus」です。
Phison製SSDコントローラに、Micron製232層 3D TLC NANDを組み合わせた、読み書き性能ともに優秀なコスパ特化型SSDとして知られます。

もう1点、同じくPhison製コントローラを使っているSSD「KIOXIA EXCERIA PLUS G3」を実験に加えます。
今回の件はWindows Updateだけでなく、Phisonコントローラもなぜか疑いの目を持たれていて不憫だったので、念入りに2枚使って再現実験にかけます。

Phisonコントローラ以外の事例に挙げられていたSSD「SK Hynix P41 Platinum」も追加します。

UUP dumpからWindows 11のインストールメディア(ISO)を取り寄せます。実験用に、配信当日のISOファイルを2つ入手しました。
- 「build 26100.4946(KB5063878導入済み)」
- 「build 26100.4770(アップデート直前)」
上記のISOファイルを、フリーソフト「rufus」を使ってOptane Memory 16GBに書き込み、極めてクリーンなブータブルメディアに変換します。

「rufus」で新鮮なインストールメディアを作成
1~2バイト程度のごくわずかなファイル破損でも含まれていれば、それだけでWindowsの挙動が不安定になりかねないです。
ややこしい因果関係を増やさないために、必ずOptane MemoryからWindows 11をインストールします。


SSDの冷却について

SSDを熱から保護するサーマルスロットリングによって性能に悪影響が出ないように、以下の手段でテスト対象のSSDを冷却しながらベンチマークを行います。
- M.2ヒートシンク「Thermalright HR-09」を装着
- 120 mmケースファンを至近距離に設置して冷却
SSDを徹底的に冷やして、サーマルスロットリングがテスト結果に影響を与えないように対策済みです。
実験その1:「Cyberpunk 2077」をコピーする

「Crucial P3 Plus」は、Windowsバージョンに関係なく、一貫して安定した書き込み性能でテストを完了します。
問題が報告されているbuild 26100.4946も、目立ったエラーや挙動不審がなく、平均4000 MB/sもの猛スピードを叩き出します。
依然として、P3 Plusのコスパが高いです。安い割に性能がすこぶる強くて、BTOメーカーから人気なのも頷ける結果です。

「EXCERIA PLUS G3」も先に検証したP3 Plusと同様に、Windowsバージョンとまったく関係なく安定した性能です。平均4000 MB/s近い速度を出せています。

「SK Hynix P41 Platinum」も目立った問題なく安定した書き込み性能です。
当該ストレージへのアクセス不能や、システムからドライブを見失うなど。論理的な障害はまったく発生しなかったです。
もちろん、物理的な障害も一切なし。KB5063878の有無やntfs.sysのバージョンに関係なく、常に安定した書き込み性能です。

実験その2:「7zip圧縮データ」をコピーする

容量256 MBの動画ファイル(.mp4)を250個に増やして、7-zipで圧縮します。容量62.4 GBの圧縮ファイル(.7z)が完成です。

圧縮ファイルのコピーはさらに安定性が高いです。
問題が報告された「Crucial P3 Plus」ですが、引き続きWindowsバージョンに関係なく、やはり安定した書き込み性能でテストを完了します。
平均3800 MB/sもの猛スピードでテストをあっさり完走してしまい、障害の片鱗すら感じないです。

「EXCERIA PLUS G3」も先に検証したP3 Plusと同じく、Windowsバージョンとまったく関係なく安定した性能です。平均3700 MB/s近い速度を出せています。

「SK Hynix P41 Platinum」も、やはり目立った問題なく安定した書き込み性能です。
ゲームフォルダ検証とまったく同じ結果です。
7zip圧縮ファイルのコピーでも当該ストレージへのアクセス不能や、システムからドライブを見失ったり、論理的な障害を確認できなかったです。
当然ながら、物理的な障害もまったく再現しません。
ゲームフォルダ検証と同じく、KB5063878の有無やntfs.sysのバージョンに関係なく、常に安定した書き込み性能です。

実験その3:「7zip圧縮データ」を展開する

コピーした7zip圧縮ファイルを、当該ストレージ上で展開(解凍)します。
書き込みと読み込みが同時に発生する複合的なワークロードです。発端のツイートによると、特に再現率が高い負荷らしいです。

期待したような不審な挙動や論理障害は、引き続き再現しないです。
本テストでアクセス不能に追い込まれた「Crucial P3 Plus」でも、Windowsバージョンに関係なく、安定した性能でテストを完了します。
平均書き込み1400 MB/s前後、平均読み込みも1400 MB/s前後、合計2800 MB/s近い速度で7zip展開を無事に終えています。

Phisonコントローラ搭載で知られる「EXCERIA PLUS G3」も、依然として障害を再現できないです。
Windowsバージョンとまったく関係なく一貫した性能です。合計2800 MB/s近い速度で7zip展開を完了します。

ファームウェアにバグがあると報告されている、やや曰く付きのSSD「SK Hynix P41 Platinum」ですが、Windowsバージョンに関係なく安定した展開性能です。
ゲームフォルダや圧縮ファイルコピーとまったく同じ結果です。
当該ストレージ上で7zipファイルを展開しても、当該ストレージへのアクセス不能や、システムからドライブを見失うなど。論理的な障害をまるで再現できないです。
もちろん、物理的な障害もまったく再現しません。
KB5063878の有無やntfs.sysのバージョンに関係なく、常に安定した展開性能です。

実験追加:「写真フォルダ(5015枚)」をコピーする

5015枚の写真(.tif)を放り込んだ、容量113 GBの巨大フォルダを当該ストレージにコピーします。
当ブログのSSD負荷レビューでも実際に使っている、中程度の負荷を発生させるSSDベンチマークです。今までの検証はどれもレビュー未満の軽量負荷に過ぎません。
ふだんのレビューで使用しているワークロードに掛けてみましょう。

序盤だけpSLCキャッシュの範囲内だから猛スピードを出せて、途中からTLC NANDへの畳み込み(フォールディング)が加わり、速度がやや低下します。
しかし、相変わらず問題の症状を再現できないです。畳み込みの発生タイミングまで、寸分違わずまったく同じで、ある意味安定しています。
すでにアクセス不能になっていたはずの「Crucial P3 Plus」でしたが、Windowsバージョンに関係なく、やはり安定した性能でテストを完了します。

「EXCERIA PLUS G3」はpSLCキャッシュ制御がやや下手です。いったんフォールディングが発生すると、平均600 MB/s程度まで速度が下がります。
なお、問題の症状を再現できないです。pSLCキャッシュが切れるタイミングですら、Windowsバージョンに関係なくぴったり一致します。

「SK Hynix P41 Platinum」は、一見するとWindowsバージョンによる性能差があるように見えますが、そもそもP41 PlatinumのpSLCキャッシュはやや不安定です。
うまくキャッシュが展開されれば爆速な一方で、フォールディングから一向に開放されず、ずっとTLC NAND本来の性能にとどまる場合もあります。
そして肝心の論理障害はやはり再現しません。
KB5063878の有無やntfs.sysのバージョンに関係なく、常に安定した書き込み性能です。

実験結果まとめ:おそらく因果関係なし

Windowsアップデート「KB5063878」が、SSDを論理的に破壊する症状を一切再現できなかったです。
アップデート前後でバージョンが入れ替わっている「ntfs.sys」もおそらく無関係でしょう。
Windows Update経由で問題が再現する可能性も皆無です。配信当日の.msuパッチ(スタンドアロン型)も使いましたが、誤ったntfs.sysが混入する症状を再現できません。
非常に高い確率で、「KB5063878」とSSDの論理障害の間に因果関係はありません。
【冤罪で不憫】Phisonコントローラも無関係
(Necoru_cat氏のツイートをもとに筆者が作成)
そもそも発端のツイートを見る限り、なぜPhisonコントローラがやり玉に挙がったのか不可解です。
障害が報告された12件のうち・・・
- WD(SanDisk):3件
- Silicon Motion:3件
- Phison:3件
- SK Hynix:1件
- MaxioTech:1件
- InnoGrit:1件
Phisonコントローラは3件です。WD(SanDisk)とSilicon Motionも同じく3件あり、特別Phisonが多いわけでもないし、今回の検証でもPhisonに問題なし。
おそらく、高熱時(サーマルスロットリング時)にドライブを見失いやすい傾向から、他社よりもPhisonが叩かれやすい可能性が考えられます。
「KB5063878」を適用するべき?

「KB5063878」パッチは、セキュリティ更新プログラムに該当します。
新しいウイルスへの耐性や、脆弱性の修正を含むアップデートなので、可能な限り適用するべきです。
Microsoft側も問題を再現できるか自社で調査したところ、報告された事例とアップデートの因果関係を確認できず、KB5063878に問題ないと締めくくっています。
以上「Windows UpdateでSSDが本当に壊れるか検証【KB5063878再現実験】」でした。

検証に使ったNVMe SSD
テストに使用したSSDでおすすめは「Crucial P3 Plus」です。BTOパソコンやミニPCでも大量の採用実績を誇る、定番SSDのひとつです。
ただし、市販モデルが少し厄介な仕様で、QLC NAND版とTLC NAND版が混在しています。
加えて、P3 Plus以上に強力なSSDが同価格帯に存在するから、今からあえてP3 Plusを選ぶメリットは少ないです。
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